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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和59年(家)1084号 審判

申述人

乙藤ハナコ

申述人

乙藤太郎

申述人

乙藤みよこ

上記申述人三名代理人

配川寿好

主文

各申述人の相続放棄の申述をいずれも却下する。

理由

一件記録によると、申述人ら代理人は、申述人太郎及びみよこが被相続人乙藤一男死亡当時(昭和五四年一一月一七日)いずれも未成年者であり、配偶者、かつ前記各申述人の法定代理人である申述人ハナコにおいても昭和三五年頃から被相続人が自営していた鉄筋業の経営については全然関与しておらず、積極、消極の相続財産の存在も全く認識しておらず、被相続人は昭和五一年一二月末に事実上倒産、閉店するに至つたのであるが、その後被相続人が死亡する二ケ月前まで同人は肝臓病のため入退院をくり返していたもので家族の生活も生活保護を受給して辛うじて生活を支えていた状況で、被相続人は倒産後もその負債状況については申述人ハナコに一切話すことなく、申述人らにおいて相続財産の有無について調査することなど到底考えられなかつたが、昭和五九年六月一五日に至り申述人みよこに対し、申立外青木実が被相続人に対し昭和五一年一一月一九日付貸金債権ありとしてその相続人みよこの賃料債権を差押える旨の債権差押命令(福岡地方裁判所小倉支部昭和五九年(ル)第五三六号)が送達され、ここにおいて申述人らは、被相続人の債務の存在を覚知するに至つたので民法九一五条一項所定のいわゆる熟慮期間は同日から算定さるべきであり、本件各申述はいずれも法定期間内に申立てられたものであり、受理さるべきであると主張する。

しかしながら、申述人乙藤ハナコの夫であり、申述人乙藤太郎・同乙藤みよこの父である乙藤一男が昭和五四年一一月一七日死亡し、申述人らがその相続人となつたこと、申述人らは昭和五九年八月二七日本件各相続放棄の申立をなしたことが認められるとともに、申述人らはいずれも昭和五八年一二月二三日前記債権者青木実の債務者被相続人に対する貸金債権についての承継執行文付金銭消費貸借契約公正証書謄本の送達を適式に受けているので(申述人みよこは当時未成年であつたがその法定代理人ハナコがこれを受領している)遅くともこの送達時において申述人らは相続すべき消極財産の有無、その状況等を認識し得る状態に至つたものと認められる。そうすると、相続放棄の熟慮期間は前記送達日から進行するものと解されるので、それから法定の3ケ月間を徒過した後に申立てられたことの明らかな本件各申述は、いずれも不適法として却下を免れない。

(柴田和人)

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